自然の恵みを受けた豊かな漁場、
北海道屈指の海の幸の宝庫。
険しい日高山脈の山々を背に、眼前に太平洋が広がる港町・むかわ町。豊富な雪解け水を集めた沙流川、鵡川という日本有数の清流が、栄養分を蓄えながら海へと流れ、豊かな漁場をつくっている。鵡川漁港には、全国規模でブランドが定着した「鵡川ししゃも」のほか、ほっき貝、真つぶ、タコ、まつかわがれい、秋鮭、すけとうだら、かすべなどさまざまな魚介類が揚がる。
鵡川漁協所属の漁師、吉村正さんは漁歴40年を超えるベテラン。ししゃもこぎ網漁やほっき貝桁網漁、たこ箱漁など、季節・時期ごとの旬の魚介をねらう漁法で、1年を通して意欲的に漁に取り組む傍ら、長男の勇毅さんとともに、自ら獲った鮮魚を燻製や干物などに加工して販売する「吉村燻製工房」を営んでいる。
「何より、むかわの魚や貝はうまい。それが僕らの誇り」と正さん。「漁師だから知っている魚介のおいしさや食べ方を家庭の食卓でそのまま味わってほしい。効率や利益を追求するよりも、むかわの海の味、本物の味を伝えていくことが大事」と力強く話す。
惚れ込んだ海に懸ける思い、
「むかわの漁師」としてのプライド。
「自分の腕1本で魚が獲れるか、生活が懸かっている。自然が相手なので、なかなか思い通りにならないことも多いが、大漁だった時のうれしさは何度味わっても格別。努力すれば結果がついてくることにもやりがいを感じる」と漁師の魅力を語る正さん。時にはチャンスを逃して悔しい思いもするが「次はこうしてみようとか、試行錯誤を続けるのが楽しい」と笑顔。「今、この時季のむかわの海で何が一番うまいのか、それを最初に知ることができるのも漁師としての醍醐味」と話す。
「よき山、よき里、よき川に恵まれたからこその海。はるか上流の森林の養分が沙流川、鵡川に流れ、森と海と川がつながって豊かな漁場になっている。だから魚も貝も抜群においしい。どの海にもその海域ならではの特徴や個性があるけれど、僕は心底むかわの海に惚れ込んでいる。あの恐竜が眠っていた海でもあるしね(笑)」。
ここでしか作れないもの、
ここでしか味わえないものを。
本格的に、水産加工品の製造・販売や鮮魚の卸・小売業に乗り出したのは正さんが40歳の時だ。新しい挑戦を始めて一番良かったのは「消費者の皆さんと直接つながれたこと」だと正さんは話す。商品を食べた感想などがメールなどでたくさん届き、「食べてくれる人の顔が分かることがすごく大切なんだ」と気付いた。危険と隣り合わせの海での作業も「喜んでくれる人がいると思うと頑張れる。勇気や元気が湧いてくる」という。やりがいや達成感がある一方で、背負うプレッシャーも大きくなったが、「次は何をしようかとアイデアを練るのが楽しい。ここむかわで、うちだけにしかつくれない味、商品を届けていきたい」と力を込める。
むかわの海と自然、
漁師の情熱と工夫が育む正直で、
まっすぐなおいしさ。
魚食文化の普及・定着のためにも「子どもからお年寄りまでみんなが『おいしい』『また食べたい』と笑顔になる商品づくりを心掛けています。今の時代に合った新しい食べ方も提案できれば」と正さん。
ミズダコの足、吸盤、頭と真つぶ、ほっき貝をセットにした「漁師直送!むかわの海鮮しゃぶしゃぶ!」は、水揚げした日に急速冷凍することで、刺身でも食べられる獲れたての味がそのまま食卓に届く。スライスしてしゃぶしゃぶにし、野菜をたっぷり入れると絶品鍋ができあがるが、カルパッチョやアヒージョ、洋風サラダに使ったり、甘辛く煮付けたりご飯に炊き込んだり、いろいろな料理にアレンジできるのも魅力だ。
そして、低温の油でしっとり火を入れ、素材のうま味を逃さずジューシーに仕上げた「むかわの海鮮コンフィ」は、パンにつけたりパスタと和えたり、ワインのお供にぴったりの逸品。そのまま食べてもよし、たっぷり挟んでサンドイッチにしたり、野菜と一緒にサッとソテーにしたり他の食材と合わせてもよし、料理の幅をグンと広げてくれる。
地道に漁を重ね、
うまいものを届ける。
ただひたすらに、誠実に。
漁獲量の減少や魚価の低下、燃料の高騰など漁業を取り巻く状況は過酷だ。けれど、正さんは決して悲観しない。「良い時も悪い時も引き締まる思いで、地道に漁を重ねていくだけ。むずかしく考えない。むかわの海の“うまいもの”を多くの人に届けること。それを一生かけて追いかけていくつもり」と精悍な笑顔を見せる。鵡川漁港は「北海道の中でも一番いい魚が揚がる港」というプライドと情熱を胸に秘め、正さんは沖へ漕ぎ出し、漁に挑んでいる。